昨今において、夜勤の仕事は珍しくなくなりました。
介護士、看護師、医師、消防士、空港職員、警察官、コンビニ店員、工場社員など
日勤もあれば、夜勤もやる。多くの職種は二交代や三交代のため、継続して夜勤をやっている人はごくわずかです。私の場合はその「ごくわずか」の中に入ります。『専属夜勤』という勤務形態で、マシンオペレーターの仕事に就いていました。
業務内容は、撚糸(撚り)加工。簡単に説明すると、糸同士を撚り合わせてコードにすること。その目的は、収束性を持たせて強力にする、また、異なる素材、異なる色を併せることで新しい特徴を生み出していく、という内容です。
勤務時間帯は夜22時から朝7時まで。休憩は計1時間。
作業自体は難しくありません。慣れてしまえば誰でもできるため仕事面では問題ありませんでした。ですが、仕事に就いて以降一つの問題を抱え続けることに・・・
「とにかく眠い!!」
慢性的に睡眠不足に陥り、体調もどうもすぐれない。食欲もない。そんな私がどのような流れで退職に至ったのか書かせて頂こうと思います。
夜勤専属は人間関係が楽!最高の職場を見つけた
夜勤専属に対して全然嫌な思いはありませんでした。私は人付き合いがとにかく苦手。「夜勤であれば一緒に働く人は少ないから人間関係は楽だろう」と考えていました。その予想は見事に当たります。
実際職場にいって仕事に就いてみると、私の部署では夜勤は私を含め4人。しかも、その先輩達も人付き合いが苦手な方が多く、面倒くさいしがらみに巻き込まれることはありませんでした。これは私にとっては救い。
また、休憩時間も全体では1時間と定められていたものの、好きなタイミングで休んでいいというルール。窮屈な仕事、現場で少しばかりの自由を与えてもらいました。加えて、高額な夜勤専属手当もつきます。
- 仕事はルーティンワークで楽
- 唯一の心配事だった人間関係も悪くない
- 休憩も自由
- 夜勤手当がつくから給料高い
「自分にとって理想の職場をついに見つけた」と心の中で大きな充実感を得ていました。
半年経過!謎の不快感…
そんな気持ちで仕事を続けて約半年たった頃。
謎の不快感を感じるようになります。言葉では言い表せず、見えない何か。謎として書くしかない不快感。原因はよく分かっていません。
まず、精神的な部分で変化が見えてきました。最高に恵まれた環境で仕事をさせてもらえてるのになぜか気持ちが晴れない、いや、むしろ暗くなってきている気がする。起きてる間はずっと気持ちが落ち込む感覚。
次に肉体面でも変化が起こりました。首と肩が異常に凝る、膨満感や、体のほてりを感じる。慢性的に体調不良になっている感覚を覚えます。
ただ、その時はそれほど深刻にはとらえていませんでした。世の中には夜勤の仕事に従事されてる方は大勢いる。自分も間違いなくその一人であり、多くの方が眠りについて休んでいる時間に額に汗して働いている。そういった点で誇りを持っていました。体調や精神面での悪い意味での変化を感じつつ、「もっとがんばろう!」そんな気持ちで朝日が昇る頃、私は眠りに就いていました。
昼間は猛烈な眠気に襲われる
夜勤経験者なら分かって頂けるでしょうが、昼間に猛烈な眠気に襲われます。それは出勤日、休みの日、関係ありません。周りに合わせて遊びに行っても、この眠気を避けることは出来ません。
当時お付き合いしている方がいました。私の場合、平日夜勤で土日が休み。彼女の場合は、土日が仕事で休みは平日に限る。これではデートをすることもままなりません。それでも有給を使って平日に会える時間を作っていました。
そしていざデートとなっても、私は毎日夜勤ですから、完全に体が夜型になっているんですね。昼間に猛烈な眠気が襲ってきます。
1度映画館に行ったことがありましたが、オープニングを見たが最後、次に見た光景はエンディングロール。彼女の冷たい視線が突き刺さります。それ以来、デートで映画館に行くことは2度とありませんでした。
また、ある日のデートではレストランに。でも、どうにも気分がすぐれない。強い吐き気がして彼女との会話も楽しめない。トイレに駆け込んで吐けばラクになるかなと思うんですが、何も出ない。とにかく強い吐き気でその日のデートは途中で終わりました。
彼女も私の仕事の勤務形態を理解していてくれていました。「少し休めば?」とか「病院で診てもらう?」など、やさしい言葉を投げかけてくれてました。それが続くのも限界があります。しばらくすると、その彼女は私のもとを去っていきました。
夜勤やりながらも上手く立ち回る人はいるのでしょうが、私にはそれが出来ませんでした。夜勤でついた習慣をきりかえるのは、並大抵のことではありません。
ストレスでパニック障害発症
勤務を始めてちょうど一年が経つ頃、パニック障害を発症しました。
その日のことはいまでも記憶に残っています。朝自宅に戻り、いつも通り風呂に入る。何気なくふくらはぎを見て「あれ?俺の足こんなに細かったっけ」と。腕も細くなったような、そんな妙な違和感を感じたのを覚えています。
その後、いつもどおり食事をとります。しかし、食べ物を口に入れた瞬間、唇にしびれを感じ止まらなくなりました。「アレ?なんだこれ」と思ってるうちに、しびれは止まりました。どうにも気分が悪い、妙な胸騒ぎ。でも会社には行かないといけない。思考を停止して車を走らせました。
気分が悪い中、速やかに引継ぎを終え現場に向かう。でも妙に足が重い。前に足を運ぼうにも足が出ない。何だろうと思った瞬間、気が付けば私は床に仰向けに倒れます。視線は天井の方へと向き、そして強烈な不安感が私の頭の中を襲います。
そして呼吸が異常に苦しい。「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」と繰り返し。そんな私を同僚が発見し、直ぐに病院へ連絡し乗せて行ってくれました。
病院での診断は「過換気症候群(過呼吸)及びパニック障害」との診断。
医師の話では、人間は強烈なストレスや過度に何かを思い込むとそういった発作をおこすことがある、とのことでした。私は昼間に眠るときに遮光カーテンを使っていませんでした。
1年365日24時間、ずっと日差しの明るいところで過ごし、逆にいえば暗闇の中でリラックス状態で眠ってなかったのですから、倒れたのはある意味必然とのことでした。夜勤従事者ならある意味“常識”ともいえる対策を私は怠っていたのです。
命に別状はないとの診断でしたからとりあえず胸をなでおろしましたが、さすがにこんな勤務を続けていては体がもたない。この病気が原因で死ななくとも寿命は間違いなく縮んでいくんだろう。そんなことを思いながら、“人生で最高の職場”と感じた場所から、身を引くことを考え始めます。
精神安定剤を服用しながら仕事!2年続けたが…
私はパニック障害を患ったことからくる不安障害を抑えるために、精神安定剤を服用するようになりました。障害は何の前触れもなくやってきます。突如猛烈な不安感に襲われることが増えていきます。キツイなと感じながらも日々、任された仕事をこなしていきました。
仕事開始してから約2年が経ちました。服用を開始しながらも続けてきましたが、所属していた部署が経営不振により解散することに。夜勤を辞められるという安堵感を覚えつつ、これをキッカケにして日中の仕事に転職しようと思いました。
最後に
転職先は幸いにしてすぐに見つかりました。マシンオペレーターという職種に変わりはなかったのですが、今度は、ベアリングの切削作業という前職とは全く畑の違う仕事です。
作業自体はかなり細かくて難しいのですが、日中仕事のみなので体調はよくなりました。服用していた精神安定剤も飲まなくてもよくなりました。今現在は、健康に仕事をこなす日々を送れています。
振り返ると当時は、お金や職場の環境といった待遇面の良さから仕事を選んだのですが、肝心の“健康”面を疎かにしていたと思います。体のケアを全く考えていなかったんだなと。
しかし、そんな経験をしたことで健康について考えるようになりましたし、自分という人間にとって必要な経験だったんだと捉えるようにしています。ですから悔いてはいません。
この時代、日本において日夜を問わず日々仕事に従事されてる方はたくさんおられます。だからこそ、健康面においてのケアの大切さがもっと問われるべきだと思います。私と同じような経験をする方がなく、すべての方が健康的に仕事に従事し、ひいては人生を素晴らしいものにしていってほしいと切に願いたいと思います。