私は歯科医院に勤務する歯科衛生士でした。
歯医者ではみんな同じような制服を着ていますが、いくつかの専門職がそれぞれ在籍して歯の治療を行っています。
- 歯科医師 (医者)
- 歯科衛生士 (クリーニング等のケア)
- 歯科技工士 (歯に装着するものを作成)
- 歯科助手 (助手/資格が無いため口の中に手を入れてはいけない)
- 受付 (事務)
歯科技工士までは国家資格を取得したエキスパートです。歯科助手・受付は資格無しで働けます。私たち歯科衛生士はクリーニングやブラッシング指導・フッ素塗布などを行っています。
私は学校を卒業してから、田舎の歯科医院に5年勤務していました。経験を積んだこともあり、思い切って東京で働きたいと考えるようになります。やはり、東京と地方では入ってくる情報が違います。最新治療を学ぶことは将来への投資です。そして自分の力がどれくらい通用するのかを知るためでもありました。
心機一転、新しい環境で様々な経験を積み、今後はどんなことを学べるのだろうかとワクワクしていましたが、現実は全く違うものでした。
就職成功!わずか2週間で東京への転職が決まる
私はまず、転職サイトに登録しました。今はネットで転職活動をしている方が多いようですね。わざわざ上京しなくても良いのは本当に助かります。
プロフィール入力すると、ありがたいことにたくさんの歯科医院からスカウトメールが来ました。いろいろと良い条件が揃っていたのだと思います。
- 歯科衛生士は国家資格が必須なため人材が少ない
- 5年勤めた経験がある
- まだ20代後半
その中から、もっとも気に入ったところへ面接を受けることに。面接当日、早朝の新幹線で現地へ向かい、午前中の診療を見学しました。手が空いたタイミングで院長・副院長・歯科衛生士さんと少しお話もできました。
昼休憩前、いよいよ院長との面接です。
「どんな質問をされるのだろう…」とドキドキしていましたが、院長は履歴書をサラッと見て簡単に歯科医院の紹介をしてくれました。
「うちは見学・面接の希望が多い」
「他の子は縁が無くて採用しなかった」
「でもあなたはうちの歯科医院に合う!」
ありがたい言葉をかけてくれました。「とても気に入ってくれた」と思いました。院長とは数分で会話が終わってしまい、面接と呼べる質問もなく内定を頂きました。
歯科事務長/院長/副院長の3人体制
地元を離れ一人暮らし、生活の何もかもがガラッと変わりました。仕事内容は同じですが、職場変われば新しく覚えることが出てきます。そのため慣れるまでが大変でした。
- 「院長は面接時に温かい言葉をかけてくれた」
- 「その院長の期待を裏切ってはいけない」
慣れない毎日でしたが…これを胸に誓って仕事に取り組みます。
歯科事務長/医院の運営、経営を束ねる、医師ではなく事務職のプロ
院長/治療する現場リーダー
副院長/現場副リーダー
私が勤めた歯科医院は、上層部が3名です。
小さな歯科医院では、「院長が開業医として治療も経営も全て行う」というのが一般的です。私が以前勤めていた歯科医も同様で、院長が一人でやっていました。もちろん副院長も在籍していません。
面接では院長に好印象を持っていただきましたが、それはあくまで院長一人だけ。歯科事務長に採用されたわけでは無かったため、3名体制であったことは入社後に苦しむ要因となりました。
チクリ→話が大きく→私が悪者…
仕事を始めて3か月に入る頃だったでしょうか。事務長が「副院長の陰口を言っているんだって?」と唐突に声をかけてきました。
私「なんのことでしょうか…」
ウソをついたわけではなく、本当に心当たりがありません。その間も思考はフル回転。考えても考えても、どのことを指しているかが思い出せません。
事務長
- 「某女性スタッフが報告にきてくれたよ」
- 「副院長が生理的に無理だって言っていたって」
一つだけ心当たりがあるとしたら、数日のロッカールーム内のこと。人間関係に慣れてきた私は、心を許してしまったのか、口が軽くなってしまったのか。
- 「副院長とどう話したら良いか分からない」
- 「ちょっと苦手かもしれない」
- 「みんなはどうしている?」
数名の女性スタッフの前で話をしました。副院長はボソボソとした話し方で目を見て話が出来ません。コミュニケーションが苦手なんだと思います。でも、どこをどう間違ったら「生理的に無理」に変わってしまうのでしょうか…。
ましてや、悪口という認識すらありません。改善しようと相談の意味もありました。その思いは伝わらず、事務長へとチクリが入ってしまいました。しかも、話は誇張されて悪口へと変わっていました。
あとで分かった話ですが、「チクリ魔」として有名な職員がいたわけではありません。昔から在籍している数名のベテラン(パート)が噂話が大好きで、それを誇張して話す。事務長とも関係が深いので伝わってしまう図式があるようです。
私「苦手かも…どうしたらいいんだろう」
ベテランA「そうなんだ(ほうほう…副院長が嫌いなのね)」
ベテランB「え?そうなの?〇〇さん、副院長が生理的に無理なんだ!」
ベテランC「事務長に報告しとくか!」
事務長「なんですかそれ?生理的に無理?それはひどい!!」
「悪意がある伝言ゲーム」として間違って伝わってしまったのでしょう。この一件で、私は事務長からの信頼を失ってしまいました。
見てもないことを事務長が信じ込む!事務長から攻撃が続く!
一度信頼を失うとなかなか取り戻すことは出来ません。私にも責任はありますが、あまりにもひどい攻撃が続くようになります。
事務長は「ベテランスタッフの話を全て真に受ける」ところがありました。事務長は週1回、わずか2時間程度しか歯科医院に顔を出しません。だからこそ、ベテランスタッフを信じ切って色々聞いていたのだと思います。
- 「他のスタッフとコミュニケーションを取りなさい」
- 「人見知りを言い訳にしているの?」
- 「あなたが来てから医院の雰囲気が悪くなった」
たった2時間しか来ないのに、その時には有る事無い事を言って攻撃してきます。人見知りでも無いですし、一体どのことを言っているのかも分かりません。
私は知らないうちに、ベテランパートから嫌われてしまったのかもしれません。こちらから話しかければ笑顔で返してくれます。でもその裏で何を考えている…怖くてしょうがありませんでした。
院長へも飛び火!お気に入りから一転…攻撃対象に
恐れていたことが起きます。面接、そして働いてからも気にかけてくれていた院長からも、攻撃を受けるようになります。
- 「悪口まだ言ってるのか?」
- 「言い訳はいい。あんたの言い分は聞かない。私の話すことだけ聞け」
これまで優しかった院長が一転、全く違う人間に変わってしまいました。おそらく、事務長からいろいろと言われたのでしょう。
- 「その年齢で仕事を分かったつもりか?」
- 「俺のやり方についてこられないならここで働く必要はない、別の所に行け」
メンタルは強いと思っていましたが…。やはりトップである院長から言われるのは重いです。
「関東で働くのは大変なんだ…」
「自分はなんて無能な人間なんだ」
悪いほう悪いほうへと自分を追いやってしまいます…。
職場全体がチクリ体質/口が軽い職場だった!
楽しかった仕事、それがだんだんと憂鬱になっていきました。毎朝乗っていた電車の時間も日に日に遅くなり、遅刻ギリギリになっていきます。この頃から、片頭痛を発症してしまい、酷い時は起き上がれず嘔吐してしまう時もありました。
「院長から攻撃を受けたこと…」が問題だったのですが、その背景には職場全体の問題がありました。「チクリ体質」「全員の口が軽い」職場だったのです。
- 人に言わないでくださいね、と言ったことが翌日には全員が知っている
- スタッフ家族が抱えている病気、院長がミーティングで内容を話してしまう
- ちょっとした発言が陰口に変わってしまう
たくさんの人が、周りのことを、陰で話してしまう医院でした。そんなことありえない…と思いつつも、これが社風なんだと無理やり理解するしかありません。悪い伝統がずっと引き継がれてしまったのでしょう。新しくはいってくる人もどんどん染まっていき…。
歯科医師は、休憩中にスタッフ同士が話している内容に聞き耳を立てています。自分の気に食わないことを言っていれば、陰口を言ったり、事務長にチクリ(報告)しているようでした。休憩時間ですら好きに発言が出来ず常に窮屈でした。
ストレスから入院に…
仕事とは別のことに気を使い続けた結果、私のストレスは限界を迎えてしまいます。片頭痛はより強烈になっていき、仕事どころではありません。病院へ行くと即入院とのこと。
正直、あの職場に行かなくてよいと思うとホッとしました。
しかし、入院に必要な書類の申請をお願いしましたが、冷たくあしらわれてしまいます。入院当初は復帰も考えていましたが、また同じ目にあうのは明らかです。また、目に見えない恐怖を味わうことになります。
変な職場に入らないための教訓3つ
わずか1年の短い期間で、東京での歯科衛生士のキャリアを終えることになりました。辞めると決めた後でも、対応はとても冷たく、何も変わることはありませんでした。
今回の経験から学んだことが3点あります。
教訓1.入社前に気がかりなことがあれば、その職場は選ぶべきではない
面接、見学で気がかりなことがあれば、その職場は選ぶべきではありません。
見学時に「バックヤードは汚れているな…」と感じました。細かい所に目が行き届かない、注意する人がいない、そういう状況だったのだと思います。
当時は、少し気がかりでしたが目をつぶって入社をしました。ですが、感じた不安は的中したので、自分の直感を信じるべきでした。
教訓2.教育体制を確認しておく
面接ではどのような教育体制を取っているのか、確認すべきでした。
入社してから分かりましたが、教育システムが全く無かったのです。始めは、なぜか看護学生から教わることになりました。まだ資格も何もない実習生です。もちろん全て知っていることでした。
教訓3.職場には合う合わないがある
無理して続けることはない、ということが分かりました。自分に合う合わないは必ずあります。以前の歯科医院では5年も勤めていたのですから。
無理に続けよう、自分を変えよう、と思えば泥沼にはまっていきます。結果として、体調を崩してしまったので早めに退職していればよかった。今ならそう思えます。
最後に
職場でのチクリ、陰口、パワハラ。
そんな悩みを持ったらすぐに辞めることをオススメします。今はどの業界も人手不足、再就職が決まらないなんてことはまずありません。
とくに歯科医院は相当に人材が足りていません。変な誘い文句につられて入社し、ボコボコにされてすぐ捨てられるような目に遭えば取り返しがつきません。