「証券会社の営業だったのですね」
「それはさぞ苦労したでしょうね」
「営業の仕事全部がそんなハードではありません」
「安心してくださいね」
新卒で入社した証券会社をたったの1年で辞めた。そんな僕に転職エージェントがかけてくれた言葉です。
地元の大学を卒業して、証券会社に入社しました。東証一部上場の大手企業です。当時は就職氷河期の真っ只中です。同級生が就活で苦労したことを考えると、大企業に就職出来たことはとてもラッキーでした。
「これから頑張って金融の世界でみんなを幸せにしたい」
夢、希望、野心を抱いて入社。しかし、現実は全く違う展開になります。
証券会社の仕事内容
前述しましたが、僕の職種は「営業」です。販売するものは「証券」となります。
主な証券3種
- 株式
- 投資信託
- 債権
この3つの軸を使ってお客様に最適なポートフォリオを提案する仕事です。
※ポートフォリオ…お金をどこに投資するのか?そのバランスをとること
いわゆる資産運用のお手伝いですね。とは言っても、基本的には営業活動が主な仕事になります。
- 顧客の個人宅訪問
- 会社への飛び込み営業
- ポスティング
- 電話での営業
入社してすぐは顧客を持っていませんので、自分のお客様を作るしかありません。お客様獲得のための営業活動をひたすら繰り返します。
同期入社は全国で200人。しかし、その3年後には残っているのはわずか60人。よくて3割しか残らないのが現実です。
それだけ離職率が高い理由は、この営業活動が肉体的にも精神的にもかなりしんどいから。実際に僕が辞めた理由もハードワークとストレスで身体を壊したためです。
「今の仕事を続けてある日突然死ぬか、転職して長生きするかどっちがいい?」と医者から言われました。まさか医者から「転職」という言葉が出てくるとは思いもしません。
「今振り返るともう少しがんばれたかな…」と思う部分もありますが、当時は限界でした。また一緒の仕事をしたいと聞かれてもNOです。
- 毎月与えられる「責任数字」というノルマ
- 上司からのプレッシャー
- 理不尽な決まりごと
いろいろなものが重なり、僕は証券業界を去りました。
証券会社に勤める営業職、1日の仕事スケジュール
「過酷」と言われている証券会社の営業職。1日のスケジュールはこんな感じです。
5:15 起床
7:00 出社/ミーティング前に新聞を4紙読む
8:15 当日の株式銘柄に関するミーティング
9:00〜11:30 午前中の取引時間(前場)飛び込み営業/ポスティング
昼休み
12:30〜15:00 午後の取引時間(後場)飛び込み営業/ポスティング
15:30〜17:15 売上報告/勉強会
17:30〜19:00 電話営業/翌日の準備
勤務終了
20:00〜2:00 自宅で提案書作り/勉強
2:00 就寝
この流れで仕事をしていました。最初のうちは良かったのですが、半年すぎる頃には身体が重くて体調がすぐれない日が多くなっていきます。
- 株式は日々値動きするため1日も見逃せない
- 投資信託や債権は毎週のように新商品が出てくる
- 新商品が出るたびに責任数字というノルマが増えていく
スケジュールを見てもらえば分かりますが、勉強にかける時間がものすごくあります。当時は1日5時間はしていたと思います。
入社後も勉強が多々必要な職種はあるかと思いますが、だいたいは知識が積み重なって楽になっていくはず。一方で、証券会社は毎日変動、そして増えていきます。
慢性的な睡眠不足、ノルマのプレッシャー、体力的にも精神的にもいっぱいいっぱいでした。
売上げをあげれないなら「◯ね」
証券会社の営業マンは結果が全てです。「頑張りました」「惜しかったんですけど」「次がんばります」は通用しません。そして、数値という結果が出てしまうため、周りと比較されやすいのも事実です。
僕が勤めた支店には、新卒ながら圧倒的な数値を出している同期がいました。見た目は爽やかで優しい雰囲気、話も上手、努力もしており知識豊富。まさしくスーパースターのようでした。
僕も努力はしていたつもりですが、どうにもこうにも結果が伴いません。その同期と比較すると、売上が足りないのです。
毎月ノルマ現金入金⇛3000万円
僕の現金入金額⇛500万
達成率 17%
ノルマに全く届いていません…。ノルマ数値自体は理不尽に設定されていることもありますが、スターは達成させてしまう月もあったほどです。僕は落ちこぼれ扱い。「ノルマはどうなんだ?しっかりやれよ!!」と課長に詰められる毎日が続きました。
そんなある日、いつものように外回りを終えて支社に戻ると…
- 「売上を上げれないなら◯ね」
- 「◯ぬか売上を出すか選べ」
- 「でなければお前は俺の前から消えろ」
課長からの言葉です。
その瞬間、頭の中で「緊張の糸が切れた音」がしました。その日からしばらくは無気力状態。おそらく、証券会社を辞めようと思った最初のきっかけかもしれません。その時はまだ入社して4ヶ月しか経っていません。
理不尽1.ジャケットを脱ぐな
理不尽なルール、物事はたくさんあります。
僕が働いていた証券会社には「夏の暑い日でもジャケットを脱ぐな」という変なルールがありました。要は、真夏の外回りでもジャケットを脱いではいけないのです。
「猛暑」「熱中症」「クールビズ」と世間が叫ぶ中で、長袖長ズボンを着て営業活動を行います。僕は自転車で外回りをしていたこともあり地獄のようでした。
- ジャケットが汗で濡れる
- 乾いて塩をふく
- ネクタイからは汗がしたたりビショビショ
営業マンは身だしなみが命なのに、これでは相手に不快感を与えてしまいます。どういった理由で理不尽ルールがあるのか疑問です。
35度を超えた日には、軽い熱中症になり1時間動けなくなったこともあります。仲の良いお客様のところに行くと、すごく心配してくれて会社に電話。「ちょっと彼と株式の話をしたい、2時間くらい彼を借りるね」と気遣いをしてもらったことがあります。
理不尽2.関係ないのに3時間も正座で説教
証券会社は恨まれるものです。得をする人もいれば、損する人もいる。それが投資の世界です。
証券会社で飛び込み営業をしていると、「株で損をした経験がある」という方に出会うことがあります。僕のお客様でも無ければ、勤めている証券会社も関係ありません。何十年も昔、はたまたバブルの頃のことを引きずっている方もたくさん。
最高で3時間説教をくらったことがあります。それも正座で。今まで愚痴が溜まっていたんでしょう。かなりの勢いで怒られました。
ちなみに、証券会社の社用車には会社の名前は書いてありません。なぜなら社名を書くとタイヤをパンクさせられたり傷をつけられたりするからです。
自分がおかしくなる…金銭感覚が狂ってしまう
100万、はたまた1000万円。日常ではなかなか目にしない数字。この数値感覚が日常化すると、お金の感覚がおかしくなります。
「300万円で投資信託を買いたい」というお客様がいたとします。嬉しい半面、心の中では「なんだたったの300万か…」と思ったりするのです。
そのお金は、必死に貯めたお金で、それを新人である僕を信じて託してくれるというのに。感覚が狂って麻痺していますよね。でも証券会社で働いている時は気づかないのです。辞めて数ヶ月前経った頃でしょうか。「あの時の自分が異常だった」と怖くなったのを思い出します。
最後に
いろいろなことが積み重なって僕は証券会社を辞めました。せっかく入った企業ですが、1年しかもちませんでした。性格に合わなかったのだと思いますし、現実を飲み込めなかったのかなと思います。
でも、入社したこと、そして辞めたことは全く後悔をしていません。次の転職先(営業)は天国に感じましたね。やはり地獄を体験したのが良かったです(笑)