結婚式場の仕事は修羅場!一生に一度の結婚式で失敗出来ないプレッシャーに耐えられなくなって辞めた体験談

激務でした

「結婚式」

夫婦にとっては晴れ舞台、主役となれる1日です。

 

その記憶、記録は一生刻まれることになります。生涯でたった1度だけのことです。そんな結婚式を支えている多くのスタッフたち。

 

「失敗できない…」

そんなプレッシャーを常に抱えて仕事をしています。

 

私もそのうちの一人でした。音楽の専門学校を卒業して「音響募集」の求人広告を見て入社したのが結婚式場です。当時二十歳の私は華やかなイメージしか持っていません。まさか、その舞台裏に、あんな修羅場があったなんて当時は思いもしませんでした。

 

結婚式場の仕事は?

 

結婚式場の仕事と聞いて、真っ先に思い浮かべるのはウェディングプランナーだと思います。式前から夫婦と一緒に作り上げていき、当日も式の進行を見守る役目を果たします。

 

私が担当したのは音響です。そのため結婚式当日がメインの仕事になります。主に結婚式当日を仕事とするのが「料飲部」という部署です。

 

料飲部

結婚式当日を担当する部署

一見すると「料理人?」と思いがちですが、式当日にかかわる仕事はこの部署で一括りされていました。

 

インチャージ

結婚式の進行を仕切ります

エスコート

新郎・新婦の案内人

音響

結婚式のBGM

こんな感じで分かれています。ただし、その業務だけしかやらないというわけではありません。インチャージ担当がエスコートをやることもあれば、その逆もあります。辞めていく人もいるので、料飲部全体でカバーしていく形となっていました。

 

とにかく忙しい結婚式場の仕事

 

入社してすぐに思ったこと…「とにかく忙しい!」

 

想像していた以上に仕事がたくさんです。次から次へとやることがふってきます。先輩社員も忙しいため質問することすらままなりません。というのも、スタッフが不足しており人員が足りないとのことでした。

 

私の入社前には音響は4人いたそうですが、あれよあれよと退職。残ったのはたった1人だけという状況です。同系列の結婚式場からヘルプを繋ぎ繋ぎでお願いしていたそうですが、それも限界だということで求人募集。 そこに入社したのが私でした。

 

そんな忙しい状況も相まってとにかく忙しい毎日でした。ですが、やる気だけは人一倍です。一生に一度のイベントに関われる仕事です。「よし、やるぞ!」という気持ちを持って日々過ごし、ずっとこの仕事を続けていきたいと思っていました。

 

私が上司?入社してすぐ人の上にたつプレッシャー

 

飲食業、販売店といったサービス業においては、入社してすぐに上司になるケースが多いです。それはアルバイトがいるからです。仕事歴はアルバイトが長くとも、新入社員は立場としてはその上になります。

 

数年後ならまだしも…入社してすぐに上司になる、これは相当なプレッシャーです。同じような悩みを抱えた新入社員は多いのではないでしょうか?

 

「出来ていないやつがいたら指示を出せ!」

 

入社直後、まず結婚式の全体像を把握することが必須でした。そのため、音響の仕事だけをやっていればいいという状況ではありません。平日は料飲部全体の雑務を行います。週末は会場セッティング、そして配膳のアルバイトスタッフと同じ仕事をしていました。

 

担当上司 Mさん

エスコート(案内人)/インチャージ(式の進行)

男性/24歳/仕事歴8年

 

私の指導はMさんが担当してくれました。高校生アルバイトから働いていて、この年齢ですでに8年目の大ベテランです。仕事に対して、お客様に対して、思い入れが強く厳しい人でした。

 

そのため指導の際には、高校生アルバイトへの怒鳴り声も日常茶飯事。会場セッティング時には、物が飛んでグラスが「ガッシャーン!」なんてことも度々。

 

「こわい人だ…」

 

お客様のためを思うからこそ、厳しくなるのは仕方ない。とはいえ…こんな指導が毎日続くのかと思うと憂鬱になりました。男性の怒鳴り声にトラウマがあった私は、その光景を目にするだけで震えそうになります。

 

2ヶ月たち仕事に慣れてきた、とある日、いつものようにアルバイトに混ざって仕事に入ろうとしていました。そこにMさんがやってきます。

 

「お前はここで見てろ」

「お前は動かず全体を見て、出来てないヤツがいたら指示を出せ」

 

確かに社員がアルバイトと同じ仕事をしていてはいけません。言い方は少し悪いですが、社員はアルバイトを上手く動かすようにしなければいけません。だからMさんは私にそう言ったのです。

 

しかし、今まで人の上に立ったことなどない私にとって、それはかなりの苦痛でプレッシャーです。ほぼ全てのアルバイトは私より経験豊富です。ましてや、私が知らないこともたくさんあります。

 

「あいつ仕事できないのに何様?」

 

こんなふうに思われたらどうしよう…不安になりながら指示を出す日々。精神的にかなりキツかったです。社員になったからには仕方のないことです。とはいえ、まだ経験が少ない私には荷が思い仕事でした。

 

「なぜ出来ない?」プレッシャーでさらに追い込まれる

 

しばらくすると、音響トレーニングが始まりました。そこで担当したのもMさんです。指導は日に日にヒートアップしていきました。

 

  • 「何で出来ないんだ?」
  • 「1度教えたら次で出来るようにしろ!」
  • 「おい!いつ出来るようになる!?」

 

文字にすると決して怖い言葉には見えませんが、結婚式の仕事という環境の中で行われるトレーニング。さらには、男性からの威圧的態度は本当に怖くて怖くて仕方ありません。トラウマのこともあり、私には耐えられない日々でした。

 

でも「辞めたい」と言うことも恐ろしくて出来ません。何とか気持ちを誤魔化しながら仕事を続けました。

 

「音響やってみろ!」プレッシャーは限界を超える

 

「お前、音響やってみろ」

 

それは突然起きました。担当する式は、身内だけ出席の少人数披露宴です。音響をメインに勤める先輩も横に付いて見ていてくれるとのことでした。

 

「出来るかな…」と不安しかありませんでしたが、「出来ません」と言える訳もありません。事前にその披露宴の流れを、通しで何度かリハーサルを行いました。リハでは失敗をすることはありませんでした。しかし、リハをやるたびにプレッシャーが強くなっていきます。

 

「一生に一度しかない…」

「失敗は絶対に許されない…」

 

スポーツ選手は自分に暗示をかけて、持っているもの以上の力を出すことがあります。一方で私は真逆。「出来ない、失敗できない」とマイナス暗示をかけてしまっています。それがより一層自分を追い込んでいくことになります。

 

「逃げ出したい…」

それだけしか頭にありませんでした。

 

結婚式当日の大失敗

 

数年たった現在でも、披露宴中当日のことは思い出せません。緊張とプレッシャーがすごかったのでしょう。ただし、覚えていることがたった1つだけあります。

 

披露宴の途中、感動的な場面でBGMを止めてしまったこと。理由は分かりません。会場は静まり返ります。「どうした?音楽は?」出席者がざわついています。

 

パニックになった私は、再生ボタンすら押すことが出来ず直立不動。音響のメインスタッフは慌ててBGMを再び流してくれたそうです。

 

「音楽がちょっと止まったらくらいでしょ?」

「そんな問題あるの?」

 

と感じる方もいるでしょう。しかし、こだわりの強いお客様にとっては許しがたいことです。そして、結婚式場は地域に根付いた存在です。仕事がひどいとか、スタッフがミスしたとか、噂はすぐに広まってしまいます。それだけミスが許されません。

 

披露宴が終わったあと、料飲部責任者、フロント部責任者が揃って新郎新婦に謝罪をしていました。もちろん音響が止まってしまったことです。お客様の大切な式をぶち壊してしまって、私は涙が止まりません。申し訳ない気持ちから、途中から謝罪の席に加わりました。

 

「この経験を活かしてくださいね」

お客様からは優しい言葉を頂きました。

 

ミスをしたことには変わりありませんが、お客様が優しいお声を掛けて下さったことに少しホッとしていました。そんな私に料飲部責任者は怒鳴りつけました。

 

  • 「お前が泣いて出てきたらお客様は何も言えなくなる!」
  • 「もっと怒って文句を言いたかったのかもしれない」
  • 「本当にお客様のことを考えているのか?」
  • 「自分のことだけしか考えてないんじゃないか?」

 

図星でした。きっと私は自分のことしか考えていなかった。謝罪することで許しを得ようとしてしまったのです。

 

指導してくださったMさんは確かに怖かったです。ただ「結婚式」「一生に一度」という重圧、プレッシャーに本気で向き合っていたからこそ、全力で取り組んでいたのです。しかし、私はプレッシャーから逃げることしか考えなかったのです。

 

プレッシャーに負けたのです。

 

退職へ、そして普通の仕事に転職

 

人手が少ないこと、負けたくない気持ち、色々が重なって結婚式場での仕事を1年続けました。朝早くから夜遅くまでの仕事で、休みは週1日だけ。与えられる仕事は難しくなっていき、プレッシャーはさらにさらに重くのしかかってきました。

 

「限界…」

そう感じた私は退職を選びました。

 

辞めたすぐ後に、彼との間に子供ができました。できちゃった婚です。しかし、結婚式・披露宴はしていません。女性にとっては憧れだと思いますが、私にとっては「披露宴」の修羅場だった日々を思い出してしまうのです。私にとって華やかな憧れの舞台ではなくなっていました。

 

子育てが一段落して普通の仕事に就職しています。普通というのも語弊があるかもしれませんが、プレッシャーが少ない会社での仕事ということです。理不尽なことも多くキツいものですが結婚式場の仕事に比べたら全然です。

 

あの頃の経験があったおかげで、仕事も子育ても、ツラいことがあっても乗り越えて頑張れているのだと思っています。今ならそう言えますね。

 

子育てがもう少し落ち着いたら…「結婚式やっぱりしてみたいなぁ」なんて思うようになりました。ここまで来るのに10年かかりました。それだけプレッシャーを抱えた仕事だったのです。