実習がつらい…と感じる看護学生へ。大変だけど負けないで!看護実習で出会った患者が24年たっても忘れられない体験談

仕事紹介(看護師)

「看護実習」

 

それは言葉には出来ないほど大変な日々、数ヶ月も続くと精神的にこたえるものです。この記事を読んでくれている方は「看護実習つらい…」「心が休まらない…」と感じているのでは無いでしょうか。

 

私が看護師になったのは24年前のこと。今と環境は違いますが、当時を振り返っても、実習はつらいものでした。これまで積み重ねたものを投げ出したとしても、その場から逃げたいと思うことが何度もありました。

 

そんな時に出会った一人の患者さん。その方との出会いがあったからこそ、私は24年間もの間、看護師を続けることができたと言えます。それは今も鮮明に覚えている「忘れられない患者さん」です。

 

実習が大変だと感じている未来の看護師さんへ。

 

その方との出会いを記事にしますので、お付き合い頂けると幸いです。つらいと感じる気持ちに、少しだけでも光が照らされることを願っています。

 

実習で担当した無愛想な患者さんが…嫌でした

忘れられない患者

吉田さん(仮名)

 

約1年の看護実習中、内科病棟で受け持った患者の吉田さん。肺癌末期の状態でした。初めて会った印象は、気難しい頑固なお爺さん。今思えば、癌の転移による全身の痛みや辛さがあったのだと思います。

 

ですが、看護学生だった私は状況を冷静に判断することが出来ません。挨拶しても目も合わせてくれない事で「嫌な患者さんだな…」と思ってしまいました。

 

それから2週間、毎日病室に通っては、教科書からピックアップしたケア計画を実践します。お風呂に入れないため、セルフケアのために毎日身体を拭く。時には髪を洗い手足を洗う。気分転換を図るために車椅子で散歩に連れ出し、検査や食事に付き添うこともありました。

 

2週間の実習期間、朝から夕方まで一緒に過ごしました。その間、吉田さんは私に対して言葉を発することも、笑顔を見せることもありませんでした。少しでも会話したり、挨拶したり、一言でも「ありがとう」と言ってくれることを心の中で期待していました。

 

ですが、期待とは裏腹に何もないまま毎日が過ぎていきます。手応えのない実習に自信を失っていき「早く終わってほしい」と思うこともありました。2週間の内科実習を終えた時は「やった!やっと終わった」とウキウキしながら自宅へ帰ったことを思い出します。

 

翌日からは、同じ病院の外科病棟で実習です。そこでも他の患者さんの担当をしていたため、すぐに吉田さんの事は記憶から消えていきました。外科での実習計画で頭はいっぱい、余裕が無かったというのが正しい表現かもしれません。

 

看護師を続ければ出会うたくさんの患者さん。「吉田さん」はそのうちの一人にすぎない、としか思っていませんでした。

 

痩せ細った吉田さんとの再開、そして大粒の涙

患者さんの検査に付き添いでレントゲン室に行った時のこと、廊下で検査に来ていた吉田さんに偶然会いました。状態はどんどん悪くなっていたのでしょう。内科実習を終えた時よりさらに痩せ細っていました。

 

「あっ、吉田さんだ。声をかけようかな…でもきっと私の事は覚えてないしな」と声をかけずそこを通り過ぎようとしました。

 

その時、「…吉田さんどうしたの?」と担当していた看護師が声をあげました。びっくりして声の方に目をやると、吉田さんは私の方を見て大粒の涙を流していました。そして、泣きながら私に手を差し出してきました。手を握るとまた大粒の涙を流しながら、何度何度も小さくうなずいていました。そのふれあいは数秒間続き、お互いがその場を離れました。

 

「え…どうして?」がその時の率直な感想。病気もあったが無愛想で、何をやっても反応が無く、私のことなど忘れていたと思っていたのに。

 

吉田さんの見送り、そして涙の理由

それから1ヶ月ほど経った頃、忘れ物を取りに学生控え室に走っていた時でした。控え室近くには裏口があり、ちょうど亡くなった患者さんの見送りをしていました。横を一礼して通り過ぎようとしていたところ、見送りしていた看護師さんに引き止められました。

 

「あなた!吉田さんの担当だった学生さんよね?亡くなって帰るところなのよ。見送りを一緒にしましょう」と声をかけてくれました。その言葉で、吉田さんのぶっきらぼうな表情、大粒の涙でシワシワになった顔が記憶に蘇ってきました。

 

私を引き留めてくれた看護師さんは言葉を続けます。「吉田さん、あなたが作ってくれたカレンダーを大事にしてたよ。あなたが来なくなってからみるみる食欲もなくなってね。あなたがきてくれていた時は、夜もよく眠れて一番安定してたんだよ。あなたは良い看護ケアができてたんだね」と話してくれました。

 

「……ウソ」

 

「違う!」

「こんな実習早く終わればいいのにと思ってた!」

「心の通った良いケアなんか出来てない」

 

申し訳ない気持ち、自分への情けない気持ち、いろいろな感情があふれ涙が止まらなくなります。

 

吉田さんは、笑うことも、私に言葉をかけることもありませんでした。それは末期の肺癌だったからです。さらに多数の転移があったことで、常に全身を襲う痛みや辛さがあったはず。それでも、見習いの実習生を受け入れ、マニュアル通りのケアに文句を言うこともなく、私が看護師として成長できるよう見守ってくれていました。

 

  • 一緒に2週間過ごしてくれたこと
  • 大粒の涙を流して手を握ってくれたこと
  • 運命のように最期に立ち会わせてくれたこと

 

それは全て「吉田さんの優しさ」でした。

 

看護実習生へメッセージ

看護師として日々患者さんに関わっていられるのは、そんな吉田さんとの出会いがあったからです。24年たった今でも、初めて出会った時のこと、やりとり、あの時誓ったことを思いだすことがあります。

 

看護実習がつらいと感じる、未来の看護師さんへ。

 

私が新人看護師によく伝える言葉があります。「私には今でも忘れられない患者さんがいます。みなさんにもきっと、そんな忘れられない患者さんとの出会いがあるはずです。その出会いをずっと大切にしてください」

 

あなたが今実習で担当している患者さんが「忘れられない患者さん」になるかもしれません。あなたの看護師人生を変えてくれる人になるかもしれません。実習はつらいと思います。ですが、負けないでください。

 

私はそんな出会いを大切に、今後も看護師として働き続けたいと思っています。いつしか同じ看護師として働ける日が来ることを待ち望んでいます。

 

この記事を書いた人
matt

看護師歴24年目、ベテランの域に入ってきました。整形外科の病棟、手術室と異動、現在は障害者病棟勤務しています。いろいろあったけど看護師という仕事が好きです。これからも日々成長したいです。