私は以前、海外ホテルの「エグゼクティブラウンジ」という部署で働いていました。エグゼクティブラウンジは5スターランクのホテルには提供されていることの多いラウンジ施設です。スタンダード以上のお部屋にご滞在のお客様、常連のお客様が利用できるラウンジサービスです。
※常連…航空会社でいうとマイレージプログラムの上級会員様
一見すると華やかな世界に見えるでしょう。給料は高そう、優雅な仕事、教養のあるスタッフが多い等。実際は真逆の世界でした。
- 海外至高がある
- 海外で働いてみたい
そのような方へ向けて体験談を書きます。私が体験したのはホテルの世界。職種によって違うことも多々ありますが、「日本人が海外で働くうえで気をつけること」は共通すると思います。
エグゼクティブラウンジの仕事、余裕のある接客
- 朝食サービス、アフタヌーンティー、夕方のお酒と軽いスナック用意
- 待ち時間軽減のためのチェックアウト業務
- お客様のリクエストに応じたレストランの予約代行
- ビジネス目的者へのミーティングルームのセットアップ
エグゼクティブラウンジの仕事例です。お客様によるリクエスト対応もあり、都度発生する業務もあります。臨機応変に立ち回る気配りが必要となります。欧米諸国が勤務地のため様々な言語が存在、5ヶ国語の新聞等を用意するのも私たちの仕事でした。
エグゼクティブラウンジは全てのお客様に対応するのではなく、ラウンジアクセスのある方のみの接客となります。そのため、メインのフロントデスク業務よりも時間的余裕があり、一人ひとりのお客様との関わりが濃くなります。頻繁に宿泊して下さる常連様と顔見知りになることが多く、お好みなどを覚え接客業としての充実感がありました。
シフト勤務は危険との隣合わせ
しかし、様々な問題もありました。例えばシフト制勤務であるということです。ラウンジでは朝食サービスが午前6時に開始されていましたが、準備等があるため早番のシフトは5時出勤です。通勤時間や着替え時間を考慮すると、かなりの早起きが必要になります。交通事情は日本と大きく異なり、週末になると電車本数は著しく少なくなる点も苦労をしました。
そして、遅番はさらに苦労をしました。午後3時開始、23時終わりです。事務処理や着替えなどを終えてホテルを出るのは、だいたい23時半。私が働いていた国は比較的治安は良いほうでしたが、日本と比較すると夜間ひとりで外を歩いたり、電車を使うのは怖く常にビクビクしていました。
同僚には、強盗やひったくりにあった人もいます。
- できるだけ現金は持たない
- スマホ、そして金目の物は持たない
- イヤホンで音楽を聴きながら歩かない
日本では当たり前のことが出来ず、いつも前後左右を気にしながらキョロキョロ。帰り道は精神的に気が休まることはなく、遅番が続く限り疲弊するようになっていきます。
また、スタッフの8割は現地人で日本人は私1人だけ。日本では当たり前だった常識が通用しません。その最たる例が「当日欠勤」です。病気や急用に限らず、クリスマスやイースターホリデーなど家族やパートナーと過ごすため、当日欠勤するスタッフがたくさんいました。
ただでさえ忙しい時期なのに、その度にダブルシフトとなり早番から遅番にかけて働きます。休みなく働かざるを得ない状況で体がいつも疲れているような感じ。自分でも「今は朝?それとも夜?」と分からなくなるほど麻痺していました。
給料安、そしてキャリアアップしない、接客の限界点
このような状況の中、よく頭の中をよぎったのがキャリアとしての将来性です。どんなに大きなホテルでも、中にある部署の数は限られています。1つの部署で頑張ってマネージャー職に就いたとしても、総支配人の元、組織の大本を動かすのはその下の役員職です。
そして彼らの求めるビジネスプランのもと、直接動くのは経理部、人事部、経理部、企画部です。フロントデスクやハウスキーピング、コンシェルジェ、エグゼクティブラウンジ等のお客様と直接関わる部署の意見や提案などを聞かれることはほとんどなく、力もありません。経営部隊とその下の兵士達という感じです。フロントラインで働く私などの小兵士は身を粉にしてどんなに頑張っても、その先がありません。出世することがほぼありません。
「ここが接客の限界点」そう感じることは多々ありました。
そして、それに伴う給料安。お客様とどれだけ強い信頼関係を結びリピーターを増やしてもお給料がほんの少し上がるだけ。ホテル業界の給与は大変低いです。話せる言語数によって手当が出ますが、これも微々たるもの。1日コーヒー1杯分のお金にもなりません。経験を積んで自分の能力、接客スキル、クレーム対応に上手く対応できるようになると自信には繋がりますが、一方で現実的に更なるモチベーションにも繋がる給与アップはほとんど期待できません。
安定した経済力を付けたければ、その上の経営部隊に部署替えするしか方法がありません。しかし、その方向転換は非常に難しいのが現実です。
接客のスキルは磨いていても、経営に関する知識、経験が乏しく、更に何百人といるホテル従業員のなかでの経営関連のスタッフは一握りしかいません。ポジションが空くことはあまりありません。そして、ポジションが空いてもすぐに新しい人事が配置されます。系列ホテルからの横移動、ヘッドハンティングで外部から招集、日本とは違い海外ならではの壁を感じることがありました。
日本人だからなのか…役職を妬んだいじめ問題
これが退職する1番の理由になったのですが、人間関係が非常に辛かったです。私は接客業の経験が長く、ホテル業界でもそれなりの業績を積んでいたため、私がこのホテルに採用された時はスーパーバイザーという役職を与えられました。
個人的に役職等には全くのこだわりはなかったのですが、長くそのホテルに勤務しているスタッフからみると、一見大人しそうな日本人がいきなり役職付きで入ってきたのが相当気に入らなかったようです。
初日から一部のスタッフから無視され、連絡必要事項を全く伝えてくれません。そのようなことが続くと業務に差し支えすることも起こり、何かが起こるとお客様の目の前でも構わず大声で罵倒されることもありました。内部の揉め事がお客様の目や耳に直接入ることは大変見苦しいことです。社内の上層部や人事部とも内密で色々と相談しましたが、何も変わることはありませんでした。
最後に
海外で働くことは良いことばかりでは無い、と痛感した経験でした。この職種や業界における様々な問題や不安点、キャリアとしての将来性、そして人間関係の改善がみられなかったため、私はエグゼクティブラウンジの仕事を辞めることにしました。
こうして改めて自分自信の経験談を書いてみると、どうしてもっと早く決断しなかったのかと後悔があります。お客様と良い関係を築けると大変嬉しく、また頑張ろうと励みになっていましたが、それはその場のみの感情でしかありません。もっと早くに自分の人生プラン、キャリアなどその先を冷静に見極めて、今いる状況に甘えず、勇気を出して他のことにチャレンジすることがいかに大切だったかと痛感しています。