「不妊治療」
誰しもが聞いたことがあるワードだと思います。
現代では身近な治療になっており、夫婦の6組に1組は何らかの不妊治療を経験したことがあると言われています。
晩婚化・晩産化が進み、不妊治療がより求められる時代になってきています。
不妊治療を行う施設は全国に約600施設あります。不妊症クリニックで5年の勤務経験がある私が仕事内容、やりがいなどをお伝えしたいと思います。
- 不妊治療クリニックに勤めた流れ
- 不妊治療クリニックの仕事内容は?
- 給料はどのくらい?
- 残業、休日、子育てとの両立は?
- どんなやりがいがあるの?
- 不妊症クリニックで働くメリット、デメリットは?
なぜ不妊症クリニックを選んだのか?
私が不妊症クリニックの仕事を選んだ理由は2つあります。1つ目は分野に興味があったこと、2つ目は夜勤がないことです。
まず1つ目の理由ですが、私は大学で助産師の資格も取得しました。もともと女性の健康やメンタルヘルスに興味があったためです。
大学卒業後、大学病院の産科で働きましたが激務についていけず退職。一度挫折しましたが、メンタルヘルスの興味は失わず、精神科病院を次の就職先に選びました。精神科病院である程度勤務すると、今度はより「女性」に関わる仕事がしたくなります。
「産科婦人科、精神科の経験が生かせる分野はないか…」と考え、思い浮かんだのが不妊症クリニックでした。
2つ目の理由は夜勤がないこと。精神科では夜勤がありましたが、夜勤が続くと体調や自然なホルモンバランスも整えにくくなります。当時は20代後半でしたが、年齢が高くなるにつれ、疲れが回復しにくくなっているのを感じていました。次に勤めるなら夜勤がないことを望んでいました。
この二つの希望に合致したのが、不妊症クリニックです。
不妊治療クリニック(看護師)に就職するまでの流れ
まずは不妊症クリニックのサイトを色々と探し、看護師の応募がないかを確認していきました。
- クリニックの立地
- どのような信念を持っているのか
- どんな診療方法を行っているか
気になるところを確認し応募、面接を受けました。
看護師の転職サイトから探しても良いとは思いますが、できれば直接ホームページで検索をオススメします。
特に不妊症クリニックは、院長の治療に対する思いや治療方法がぜんぜん違います。職場の雰囲気も想像しやすくなるので、なるべく自分で探してみてください。
実際の就職時には、事前に履歴書を送り面接を受けました。院長と副院長、看護師長との面接で、後日すぐに採用の電話がきて採用となりました。
慢性的に看護師はどこも不足しています。婦人科などの勤務経験がなくても、やる気があれば採用される看護師は多いかと思います。
不妊症クリニック看護師の仕事内容は?
クリニックによって仕事内容は変わると思いますが、私がやっていた仕事一覧です。
不妊症クリニックの仕事
- 外来業務(診察介助、採血、採卵・胚移植スケジュールの説明など)
- 採卵・胚移植室業務(採卵・移植の準備・介助、点滴施行など)
- 夜間の採卵前注射
- 翌日の採卵・移植予定の確認・会議準備
- 学会発表、院内ミーティング・勉強会準備
クリニックの1日の流れは、以下のようになります。
- 8:30 採卵開始
- 9:00 外来開始
- 10:00-11:00 新鮮胚・凍結胚移植
- 12:30 午前診療終了
休憩
- 15:00 午後診療開始 初診患者など
- 18:00 午後診療終了
私が勤めていたクリニックでは早番と遅番勤務がありました。
早番は採卵などを担当するオペ室勤務で、8:00からの勤務となります。勤務開始になると、まず採卵を行う患者さんをオペ室控えに誘導し点滴を行います。
クリニックの規模にもよりますが、1日大体3〜5名採卵を行っていました。採卵自体は一人20〜30分ほどで終了します。採卵中は全身麻酔か局所麻酔を行います。その際のオペ室勤務の看護師は3名で、点滴管理、外回り、ディッシュ(採った卵子をのせた容器を培養室に運ぶ)の役割を分担して行います。
採卵が終了するころになると、今度は胚移植の患者さんがオペ室にきて移植を行います。これも一人大体10-20分で終了します。移植の場合は麻酔は必要ありませんので、点滴は行わず、看護師も一人で対応します。
外来業務では、人工授精、採卵や胚移植を行う患者さんの診察介助が主になります。採卵を行う患者さんは採卵まで大体7〜10日間連続して注射が必要となるため、その注射のみ行う患者さんも診察介助や説明の間に対応します。
さらに、無事に妊娠したけれども、妊娠初期に流産となる患者さんも多く、流産手術も行います。午前中診療時間の最後の方に行い、その後リカバリー室で休んでもらい、午後診療が始まる頃に患者さんは帰宅できるようになっていました。
不妊治療クリニック看護師の給料はどう?
給与
- 月給 31万
- 賞与 3ヶ月分
年収 470万
30代看護師の平均年収(東京都)は545万円です。これには高待遇で働くことができる大学病院等も含まれた値となっています。やはり、クリニック勤務だと、夜勤手当や諸手当が支払われる大学病院や総合病院と比べて年収は低くなります。
しかし、夜勤がないと自分の時間を持つことができたり、体調も整えやすくなる利点があります。私は日勤だけの勤務を選んで良かったと思っています。
残業は?労働時間は長い?
勤めるクリニックにもよりますが、不妊症クリニックでは長時間の残業はありません。残業が発生するケースとしては、診療が終わる間際に来院した場合くらいです。病院のように急なことが生じて、残業が強いられることはありません。
ただし、採卵前の夜間注射を看護師がクリニックで行う場合、夜間(主に21時)に看護師が待機し注射を行う必要があります。その際は、日勤看護師が1名残り、(または一度外出して戻ってくることもできる)注射を行います。
それが唯一の夜間の勤務と言えるでしょう。もちろん、注射が終了したらすぐに帰宅できます。
土日の夜間に採卵前注射が必要になることがあります。午前中に仕事が終了しても、一度帰宅して戻るか。またはどこかで時間をつぶさないといけません。その点では少し不便な思いをしたことはあります。
休日はどう?
週休2日制です。休日はクリニックの診療日にもよりますが、私が在籍したクリニックでは、土曜・祝日にも採卵や胚移植があるので、休日勤務もあります。休日勤務をした場合は、他の日に代休をとります。
そのため、平日に休みを取れることも多く、人混みを避けられる平日に出かけられるのはメリットです。
夏休みも平均して7〜10日間ほどあります。また有給休暇も、看護スタッフは積極的に使うことができています。大学病院や総合病院と比べて働く環境は整えられていると感じています。
子育てとの両立は?
私が在籍したクリニックはベテランが多く、子供がいても手のかかる時期を過ぎているのがほとんどでした。
しかし、子育てとの両立はしやすいと感じています。すでにお話したとおり、夜勤がないのが一番大きいです。また、保育園に預けている数年間、パート勤務として柔軟に働くことが可能です。
ですが、不妊症クリニックという性質上、妊娠すると働きづらくなる雰囲気はあったように思います。不妊に悩む患者さんの目を嫌でも感じるのです。お腹が大きくなる前に、辞めていく人がほとんどでした。
不妊治療に取り組むやりがいは?
やりがいは「患者さんの妊娠」につきると思います。
このゴールを目指しクリニック一丸となって、患者さんに寄り添います。不妊治療は楽なものではありません。患者さんにはとてもストレスフルな治療です。ほとんどが自費診療となり、精神的にも経済的にも多くの負担がかかります。
ですから、クリニックで初診で来られてから、妊娠してクリニックを卒業(転院)するまでの間、より親身に関わる必要がある分野です。
まして、私自分も女性です。同じ立場として患者さんご夫婦の気持ちが痛いほど分かります。つらい治療を受ける際には、看護師としてよりサポートしたい気持ちが強く、それが日々のやりがいに繋がっています。
また、日本における不妊治療は世界的に見てもトップレベルです。最先端医療に関わることも、やりがいの1つでした。高い意識を持つ医師、胚培養士、看護師、事務職員とのチーム医療を体感できると思います。
不妊症クリニックで働くメリットは?
不妊症クリニックで働くメリットをいくつか挙げます。
- ワークライフバランスが取りやすい
- 女性の健康や妊娠などの知識が得られる
- 夜勤がなく体調が整いやすい
夜勤で体調を崩す看護師が多いと聞きます。私もそのうちの一人でした。今では生活の質も変わり、身体が楽になりました。夜勤がない分、予定も立てやすいので私生活のバランスも整うようになりました。
加えて、不妊症クリニックで働くと妊娠に関する知識がつきます。自分自身の健康や人生設計を考えるきっかけになりました。結婚、妊娠、出産、自分はどうしたいのか考えるようになったと思います。
不妊症クリニックで働くデメリットは?
一方でデメリットとしては、以下が挙げられます。
- 給料が多くなく昇給も限られる
- 外来が混雑していて忙しい
- 人の命に直接関わるので正確な行動と高い集中力が求められる
- キャリアアップの道が限られる
給与は平均より低いです。クリニックですので労働組合がないところがほとんどでしょうから、給与アップも期待できません。
日本には多くの不妊症クリニックがありますが、どこも多くの患者さんで混雑しています。その中で、一人一人の患者さんに合わせた対応や説明、丁寧な接遇が求められます。とにかく忙しいという印象です。
最後に、個人のクリニックであればあるほど、看護師としてのキャリアアップは限られてきます。ずっと同じクリニックで勤務を継続して師長を目指すのか、それともより高待遇のクリニックへと転職するのか。一度は考えることです。
キャリアアップを望まず、一つのクリニックに留まり、学び続けることも一つの働き方かと思います。
国内・海外の学会に参加できる
クリニックによっては、国内海外の学会に積極的に参加を促してくれたり、学会発表の機会を与えてくれる病院もあります。
不妊治療分野では、毎年アメリカとヨーロッパで生殖医療学会があります。私も一度アメリカの学会に参加することができました。同じクリニックの先生方と同行し、色々な国の発表を聞き刺激になったことを覚えています。
海外の学会には個人ではなかなか参加できません。クリニックによっては積極的に参加を促しているところもあります。もし海外の生殖医療にも興味があるのであれば、転職でその点も重視すると良いと思います。
最後に
不妊治療クリニックで働く看護師について記事をまとめました。看護師といえば病気の治療が一般的な業務かと思います。その中では特殊な働き方になりますが、現代では必要な職務となっています。
興味がある看護師の方へ。私の経験談、この記事が参考になることを願っています。