【現役看護師が執筆】脳に障害(脳神経外科疾患)を持った患者とどのように関わっていくべきか?経験から分かることをお話します。

仕事紹介(看護師)

私はリハビリテーション病院に看護師として勤務しています。以下の症状を対象とした脳神経外科病棟です。

  • 脳梗塞
  • 脳卒中
  • 頭部外傷を負われた方

 

脳障害をおった場合、患者様が一番大変なことは間違いありません。ただし、それと同じくらいご家族も苦しんでいるのを経験で知っています。

 

私
ご家族

どう対応したら良いか分からない…

私
ご家族

現実を受け止めるのが辛い…

 

たくさんの事例を目の当たりにして、患者様やご家族から教えて頂いたこと、経験を通し培った技術があります。

 

  • 悩まれているご本人
  • ご家族の方々

自分の経験を交えながら、少しでも皆様の心に希望を見つけてほしい。そのきっかけになればと思い記事を書かせて頂くことにしました。テーマは「脳に障害(脳神経外科疾患)を持った患者とどのように関わっていくべきか?」です。

 

脳を損傷するとどのような症状がでるのか?

人間の脳にはたくさんの機能が備わっています。呼吸や内分泌、運動神経、感覚神経を司る生命維持に不可欠な領域がまず存在します。

 

それだけではなく、思考や記憶を司る領域、自分で自分の欲求を抑えコントロールする感情を支配する領域も多く存在しています。

 

そのため、脳を損傷し、重い後遺症が残ると右片麻痺や左片麻痺、歩行障害など、主に目に見える麻痺だけではなく、目には見えない感情面や思考面、記憶面にも障害を残ってしまうのです。

 

主な症状(脳障害)

記憶障害、失語症と言われています。


  • 物を見せてもそれ自体を認識できない
  • 物を理解しても言葉に出して表現できない
  • 穏やかだった人が攻撃的になる
  • 本能を自制できなくなる(主には性欲)

 

損傷部位により現れる症状は多種多様です。このような目に見えない症状は周りからは理解されません。本人やご家族にとって最もつらい症状とも言えます。

 

しかし、私はそのような患者様、ご家族の方と関わる中で、現実を必死に受け止めようと頑張る姿に何度も励まされたことを覚えています。そこで、様々な関わりの中で特に心に残っている体験やどのような工夫をしながら関わってきたのかをお伝えします。

 

(記憶障害)自分の字で書いてもらう

記憶障害をかんたんに言うと「忘れて記憶できない」を指します。ですが、患者様によってもそれぞれ症状が違います。

 

記憶障害でよく見られる症状

  • トイレの場所が分からなくなる
  • 食事の方法を忘れてしまう
  • 服の着方、脱ぎ方が理解できない
  • 朝ごはんを食べたのに10分で全て忘れてしまう

 

場所が分からなくなる場合の対処

 

場所が分からなくなる方には、周りが方向性を示してあげるのが効果的です。行動範囲を確認し、迷うことがないよう大きな矢印と場所を記載します。そうしてあげると「自分がどこに行くべきか」「何がしたいのか」を認識できるようになります。

 

食べたことを忘れてしまう場合の対処

 

食べたことを忘れてしまう症状は「自分自身で記録してもらう」のが効果的です。食べている時に、メモ帳にいつ、何を食べたかを自分の字で記載してもらいます。空腹感が働いても、書いた記録を見直し、自分がいつ何を食べたのかを客観的に認識することができるようになります。ご家族、あるいは職員が記録するのとは大きな違いが生まれます。

 

(言語障害)答えてもらうのを簡単に、分かりやすく「YES」「NO」

言語障害で口からの発語や理解が難しい場合は、キーボードや絵を見ながら会話をします。そして、なるべく「YES」「NO」で答えられる質問をしてみてください。本人の要望に応えることができるようになります。

 

そして、最も重要なのが諦めないこと。私たちは1つの道具にこだわらず、様々な手段でアプローチを続けます。コミュニケーションが取れないからといって諦めてはそこでお終いです。その人に合ったやり方を見つけるのが先決です。

 

また、失敗を責めてはいけません。本人の自信や自尊心の低下につながります。逆に小さな成功を大きく喜ぶ。そうすることで、自信や自尊心を維持させたまま、障害の受容や生き生きと生活できる手段が増えるのです。

 

本人、そして家族ともに、始めはなかなか障害を受け入れることが出来ません。そのような関わりの方法を学ぶことで、障害を受け入れ、幸せな毎日を過ごすきっかけとなるのです。

 

家族の顔も名前も忘れてしまった全介助の女性

私が体験した忘れられない事例を紹介したいと思います。

 

その方は幼い2人の子どもを持つ女性でした。年齢は20代後半と若いにも関わらず、突然脳の病気を発症しました。日常生活は全て全介助となり、思考面だけでなく家族の事を忘れてしまうほど重度な記憶障害となります。

 

お子さん

お母さんじゃない…

子どもたちはその姿に泣くばかり。突然変わってしまったことに恐怖と不安を覚え、面会に来なくなってしまいました。私たち職員は子供たちが、母の姿を悲しむのではなく、また寄り添い甘えてくれる日が来ることをただただ祈るばかりでした。

 

私たち看護師にできることは、毎日の声かけ、出来たこと1つ1つに喜び、その患者の成功体験を増やしてあげること、ご家族に今日は何ができたのかを報告すること。本人、ご家族の自信や気力が低下しないように励ますことでした。次第に家族も面会にきてくれるようになります。また、本人に語りかけることが多くなっていきます。

 

その結果…

だんだんと記憶に家族の存在が戻りはじめます。

変化はそれだけではありません。通常の思考も戻っていくのです。

  • 自分が今何をしているのか?(スプーンを使いながらご飯を食べている)
  • 何をしたいのか(トイレにいきたい)など

 

退院間近には、歩行もできるようになっていました。元の状態とまではいきませんが、かなり改善された状態で見送ることが出来ました。子供たちの名前も思い出し、笑顔で語れるようにまで回復したのです。

 

この奇跡は、医療職をしている立場からもとても大きな喜びとなりました。しかし、これは私たち職員の力ではありません。患者様本人、そのご家族が現実から逃げず1つの目標に1団となって頑張ってきたからです。これが家族の力です。

 

障害を持たれたご本人、ご家族に伝えたいこと

1つの家族に、その家族の人生ドラマがあります。看護師は患者様から、それぞれの感動を与えていただき、日々勉強させていただいています。

 

患者様の出来ないことができるようになった時、笑顔で退院される時、患者のご家族が喜びを感じる時、様々な瞬間の喜びが私たちにとっても貴重な体験となります。

 

その中でも、最も喜びを感じることは、あなたがあなたらしく自分の人生を生きてくれることです。現実から逃げるのではなく、目の前の現実を直視し、どのような関わりを持てば良いのか、どうすればこの問題に対処できるのかが理解できるだけでも、目の前の世界は広がります。

 

自分を責めず、相手を責めず、その症状に向き合うことで見えてくることもあるはずです。あなた1人で悩むことは何もありません。様々な症状に向き合い、生きていくために私たちのような職種、病院があるのです。

 

どうか分からないことがあれば、情報を求めてください。そして明るい未来のために、今のご家族の方と新たな自分の人生を築いてください。あなたがまた家族で笑える日が来ることを、心から期待しております。

 

この記事を書いた人
iwane

脳外科病棟で勤務しているiwaneと申します。日々勉強、日々努力、看護師として頑張っています。文章を書くのが好きです。この記事が誰かの役に立つことを願っています。