求人誌を見ると飲食店がたくさん掲載されています。そのため、飲食店での勤務を経験したことがある方は多いのではないでしょうか。私もそのうちの一人です。ファミレス、居酒屋と経験をしました。
将来は飲食関係の仕事に就きたいと思い、幼き頃から夢だったパティシエになるべく、専門学校に通い2年間勉強しました。
その後、某高級レストランに就職が決まりパティシエとして採用されます。しかし、待っていたのは見た目の華やかさとは違う世界。過酷な労働時間と無謀な仕事量。
- 夢を持って飲食業界に飛び込んだこと
- 飲食業界の厳しさと現実
- 高級フレンチのパティシエを辞めたこと
私の体験談をもとに記事を書いていきたいと思います。
忙しすぎる飲食業界の世界
私の就職先は大会社ではなく、いわゆる中小企業でした。しかし、お店の立地や質などがすごく評価されている企業です。
「飲食業界で高評価な会社に入れてよかった!」
はじめは就職出来たことが誇りでした。
しかし、フタを開けてみればそこは戦場。1ヶ月の研修期間を終えた後にすぐ持ち場が割り当てられます。担当は新人の私ひとり、マンツーマンで指導してくれる人はいません。明らかな人手不足です。
「忙しい中、質問に行くのは先輩の迷惑になる…」
マニュアルを見ながら必死にこなすので精一杯。
しかし、本当の大変さはその後に待っていました。次の仕込みです。お客さんが来れば来るほど仕込み量は増えます。
デザートの場合、ランチ、カフェ、ディナーと3部制です。仕込みの種類と量は半端ではありません。加えて新人は掃除や皿拭き、ゴミ捨てなど、完全にキャパオーバーな仕事量でした。
働きすぎ!休みは月にたったの2日
月4回の休みでシフトを回していました。「そんなに休み少ないの?」と異常に思う方もいるでしょう。
しかし、実際はその4日すらまともに取れません。
仕込み状況や急なケーキの発注などで、休日出勤もザラにありました。その補填となる代休があるわけではありません。
月で完全に休みになったのはたった2日間です。
1日15時間!長時間残業の実態
休みが少ないことに加えて、1日あたりの労働時間もすさまじいものがありました。
正社員は朝9時の出勤です。しかし、新人は通常業務に加えて仕込みをしなければいけません。
ランチ、カフェ、ディナーとオーダーを受けながらの仕込み作業はとうてい終わるわけもなく、早出が必須となりました。朝7時には出勤していました。
営業は始まれば休憩を取る暇もありません。持ち場を離れられずトイレに行く時間までも惜しくなります。結果として膀胱炎にもなりました。
さらに新人は賄い担当まであります。カフェの時間と平行してホールとキッチンの人数分の賄いを作らされます。
作ったものの自分がゆっくり食べる時間はありません。急いでかきこみ、すぐ持ち場に戻りディナー準備をしていました。
帰宅時間もとにかく遅いです。深夜1時を回ることが多く終電にも間に合いません。自腹でタクシーに乗り帰る事がほとんどでした。
訳あって実家から通っていたこともあり、通勤すること自体が時間と金銭がムダになっていくのです。
- 「汗水流して働いたお金をタクシー代で使う…」
- 「このことに何の意味があるのだろうか…」
たくさんの人に自分の作ったスイーツを食べてもらいたい。笑顔になってもらいたい。そんな気持ちからパティシエになりましたが、追い込まれていた私はいつしか目的を見失っていました。
お客さんが入れば入るほど仕事が増える。それに嫌気がさしています。
また、給料面も決して良くはありませんでした。新入社員にしてはまずまずの給料でしたが、アルバイトの方が倍以上に高いのです。
「おまえは正社員なんだから責任の重さが違うんだ」
上司からはそう言われますが、休憩もしっかり取れるアルバイトに嫉妬してしまうのです。
頭では分かろうとしてたけど、あまりの待遇の違いに戸惑ってしまいます。
「この仕事辞めたいな…」
だんだんとマイナス思考になっていきます。
地獄の新メニュー作り
働きだして約3カ月ほど経った頃、新メニューの考案を任されました。
コース料理がメインのお店。ランチ4種、ディナー5種と計9品のメニューを考えなくてはなりませんでした。
新人としては異例の要望です。私に能力があったのではなく、単純に人がいなくて回らないのです。全て丸投げにされたわけではありませんが、高級レストランで出すデザートを考えろというのはちょっと無謀では…と内心思っていました。
毎晩、睡眠時間を削ってメニュー作りです。寝るのは夜中3時を超えることもあります。そのあとは試作と試食に追われる毎日でした。
- 「ただえさえ仕込みの時間が足りないのに…」
- 「その上試作もあるなんて…」
本来楽しいはずの仕事も、マイナスにしか受け取れません。最終的にシェフのOKサインが出れば良いのですが、そう簡単にはいきません。
「こんなのも作れないのか?お前はいったい学校で何を勉強してきたんだ」
「こんなもの出したらうちの店がつぶれる」
何度も罵声を浴びせられました。
オーダー、仕込み、試作、雑用など。仕事が多すぎて発注ミスをしてしまう回数が増えていきました。新入社員は私だけでしたので、共感しあえる同僚もいません。上司にも相談できず一人で抱え込んでいました。
「もう辞めてやる!」
心の中では思うのですが簡単な話でもありません。
辛いのが理由で辞めるのは負けた気がします。悔しさとやるせなさで、誰もいないロッカールームで涙を流す日々でした。
転職機会は突然に
そんな私にも転機が訪れました。
系列店で働いていたスタッフが独立するとのこと。私に一緒にやらないかと声をかけてくれたのです。
お店が忙しい時にヘルプで来てくれる方で、気さくでとても優しい人でした。私が追い込まれているのを感じ取ってくれていたのでしょう。
「君ならもっといい仕事ができるよ」
温かい言葉をかけてくれました。
その時に祖父に言われた事を思い出しました。
- 「毎日毎日一生懸命やりなさい」
- 「その姿は誰かが見てくれるから」
まさにその通りだったのかな、と思わせてくれる瞬間でした。
私はその誘いを受けることにします。繁忙期が終わるまでは今の仕事に集中して、その後に退職を伝えよう。人手不足で引き止められるだろうけど、自分の人生は自分で決めると決意をします。
その後、退職を果たし第二の社会人スタートをきりました。
取り戻したパティシエの夢
職場、人、作業効率、全ての環境が一変しましたが、緊張や不安はありませんでした。
それほど仕事が楽しくなったのです。オープンキッチンから見えるお客様の笑顔にやりがいを感じる。充実した毎日です。
自分でも驚いたのが心境の変化です。
以前は上司に意見をする事を恐れていました。職場が変わってそれが一変。「お店をもっと良くしたい」という思いからどんどん意見できるようになったのです。
上司が変わり、以前とは状況が違うのかもしれません。しかし、今までやってきた事が自信に変わっていたのです。
「辛い事があっても、あの日々が乗り越えられたんだから!」
経験が背中を押してくれました。
最初に苦しい思いをすると後が楽と言いますが、その通りだと思います。
心身共にボロボロになり、パティシエの夢を諦めかけていました。しかし、自分を認めてくれる人と出会って初心に帰ることができました。
「入社してすぐ辞めるなんて甘い」という方もいるかもしれません。しかし、状況は人それぞれ違うし、辞める事が悪いとは思いません。
激務の1年間、今では私の原動力です。