コンサート、舞台、その他イベント、会場を沸かせるのは演者だけではありません。会場、運営、演者側スタッフが事前に準備を行う。そして、当日は裏方として一緒に盛り上げている舞台、音響、映像、照明のテクニカルスタッフがいます。
会場を盛り上げるために、黒子として働く姿を「かっこいい」と思う方も少なからずいるのではないでしょうか?
私はかつて、舞台照明オペレーターとして10年間勤めていました。かっこよく、華やか、激務だけど素敵な仕事。そんな舞台照明オペレーターについて紹介します。この仕事に興味を持っている方に読んで頂けたら嬉しいです。
舞台照明オペレーターの仕事内容は?
舞台照明というのはカテゴリーが多いので、ここでは「音楽アーティストのライブ」の「当日設営会場の1日」の過程を紹介します。ただし、機材準備等の事前作業は含んでいません。
1.会場到着、機材搬入
全機材を会場に搬入して、アルバイトに指示を出して仕分けします。
2.会場設営の後、照明機材仕込み
会場にある照明バトンと呼ばれる装置に照明機材を仕込みます。この作業を早く終わらせないと、舞台装置の設営ができません。その他、舞台装置につける機材、ステージ上に備える機材などを仕込んでいきます。
3.照明合わせ(シューティング)
すべてセッティングできた時点で、タイムスケジュールに合わせてシューティング(照明の微調整)をしていきます。
4.打ち合わせ、リハーサル
当日のセットリストなどの確認、リハーサルでは本番通りに照明を操作します。修正箇所があれば、速やかに修正します。
5.ライブ本番
それぞれのポジションにつきます。照明コンソール、ピンスポット、ステージオペレーターなど、それぞれ役割があります。
6.撤収作業、機材搬出
片付けをして終わり
ざっくりしていますが、この作業項目でライブ当日は過ぎていきます。
舞台照明オペレーターの残業は?
華やかな仕事ではありますが、勤務時間はとにかく長いです。勤務時間という枠を超えて働くことがあります。特にライブでは残業といった概念は存在しませんし、芸能界に関係するため仕方のない点ではあります。
朝、機材倉庫に5時集合となります。それから現地入り、イベント終了後器材の降ろし作業等があれば24時過ぎ。19時間も拘束をされることになります。
ライブ当日の勤務時間
5:00〜24:00 (19時間)
特殊な職業なので、何時間休憩で、1日何時間労働というのは設けてありません。そして、それが不可能なことは前提でみんな入社してきます。
ただし、全国規模の大手企業であれば、残業時間も担当の方が管理してくれていると聞きます。現場のない日に休日調整をしたり、デスクワークの日はフレックスにする所もあるようです。地方企業や、個人経営の会社もあるので、その会社によって方針は違ってくると思います。
よって、残業手当も企業によって様々です。ガイダンスなどがあれば、聞いてみると良いでしょう。
舞台照明オペレーターのお休みは?
当然のことながら、土日祝日はコンサート開催率が高いので、土日祝日のお休みはほぼ無いと思っていただいた方が良いです。
しかし、現在は労働基準が厳しく取り締まっています。現場に出ずっぱりな場合は、会社側から休むように要求してくることがあります。
先ほども述べた通り、特殊な職業のため、会社に入ってくる仕事も本当に流動的です。緊急の仕事も入ってきます。急に「現場入りしてくれ」と依頼されることもしばしば。そのことを踏まえて、職場選びをして頂きたいです。
- 「労働時間が長いのはちょっと…」
- 「休みはそこそこ欲しい…」
照明オペレーターはやってみたいけど、労働条件が気になる方は大手企業を選択するのがオススメです。大企業は従業員数も多く、交代で勤務する仕組みが整っています。
また、バンケット(結婚式場、ホテルの会場演出)や、ホール管理(会場側の スタッフ)をしているところもあります。これらの仕事はライブと比較して、計算しやすく労働条件が良いと言えます。
舞台照明オペレーターの大変なところは?
この時点で「けっこう大変だな」と思われたでしょうが、仕事内容についても大変なことが多々あります。
- 失敗できないプレッシャー、事前準備の戦い
- 照明班は早入り&遅帰り
- 危険な作業もある
失敗できないプレッシャー、事前準備の戦い
ライブ当日はとにかく緊張します。それは10年続けても変わりはありません。たった1回の勝負、失敗は絶対に出来ません。アーティスト、他スタッフ、そして何よりも楽しみにきてくれるお客様、1つのミスで期待を裏切ってしまいます。
そのための事前準備は相当念入りに行う必要があります。機材名はもちろん、機材の使い方、照明用の色番号、電気を使う際のアンペア数、電気の容量は足りるのか計算等。
また、ホールやアリーナを使用する際にどこにどんな機材があるか、などをリサーチする必要があります。それらを短期間で覚える必要があります。これは1年、2年では身につかず、5年経ってようやく任されるような仕事です。
照明班は早入り&遅帰り
全セクションの入り時間、帰り時間はほぼ変わりませんが、ライブによっては時間差になることがあります。照明班は特に何十台、何百台もの細かい照明機材を収納する作業もあるので、時間がかかります。そのため、一番早く会場入りし、一番最後に撤収することがしばしば。
危険な作業もある
コンサートに行く人は知っていると思いますが、照明はほぼ会場の上部にあります。ピンスポットも会場の最上部に設置してあります。ということは、照明スタッフは、会場の高所で作業することが多いのです。
照明合わせの時も、上部に昇って合わせたりもしますし、シューティングタワーという特殊なハシゴを使って作業することもあります。アリーナクラスでは、ピンスポットルームはほぼ天井部に設置してあります。そのため安全ベルトは手放せません。それほど危険な作業が多いのです。
舞台照明オペレーターのやりがいは?
照明スタッフは、体力も、知識も、対応力も必要な職業です。会場の隅々まで駆けずり回って作業する過酷なものです。何十時間作業に費やしても、ライブはほんの数 時間で終わってしまう儚い仕事。ライブなのでもちろん失敗は決して許されません。プロ根性を持たなければならないとても厳しい仕事です。
ですが、そんな過酷な仕事でも、ライブ本番が終わったときの達成感や、お客さんの喜んだり、涙したりする感動の表情。それはこの仕事でしか味わえない達成感、やりがいとなります。
「あぁ、次も頑張ろう」と思ってしまうのです。知識やキャリアが増えると楽しさは倍増、自分のセンスに自信が持てる日が来ることでしょう。
例えば、自分が参加した仕事がDVDになって発売されたり、TVで放映されたりしたら思わず見てしまいますよね。「自分の作品」として映像に残ります。こんな嬉しいことはありません。
最後に
私はもともと、コンサートスタッフになりたくて、この職業を選んだわけではありません。ですが、この仕事に携わることができて「充実の日々」を過ごすことが出来ました。たかが照明、されど照明。「自分がコンサートを盛り上げる!」それくらいの気概を持ってやっていました。
それくらい夢中になれる仕事につけたのは幸せです。それまでの、厳しく、泣いてしまうくらい過酷な事を克服できたからこそ、与えられた答えなのでしょう。
妊娠を機に大好きな仕事は離れましたが、あの当時の記憶は色褪せること無く残っています。ライブ会場に行くと現場人であった「血」が騒ぎます。周りがステージを見る中、私だけ天井を見上げて違うところを見ています。さすがに子育てとの両立は無理で復帰は諦めていますが(笑)
この仕事に興味を持っている人、誰にでも向いているとは決して言えませんが、自分を試してみるという意味では、ぜひチャレンジしてほしい職業です。