過酷なブラック企業に勤めた結果。
「このままでは命まで危ない…」
いろいろな決心とともに転職した体験談です。
稼ぐのに必死!その結果ブラック企業に入ってしまった
とある中小企業規模の運送会社に入社したのは、まだ夢と希望に満ちあふれた20歳をちょっと過ぎた頃でした。早くに結婚して子供も2人いる状況。
入社してまもなく一人前として仕事も任されるようになり、とにかく稼ぐことを念頭に毎日奮闘していました。独身だったら結果が違ったかもしれませんが、仕事を選んでいる状況ではありません。入社に当たり、そっと救いの手を差し出してくれた社長には感謝したのを覚えています。
しかし、想像を絶する仕事環境にその感謝はすぐ消えてしまいます。
・2日間睡眠なし、48時間ぶっ続けで運転がしょっちゅうあったこと
・家に帰れるのは日曜日の午前中だけ
稼ぐしかないけどこのままでは精神的におかしくなってしまいそう。でも続けるしか無い。
「運転手は、みんなこのぐらいは仕事している」
という社長の言葉を信じていた自分はまだ若かったですね。
ブラックドライバーの現実
ブラック企業でドライバーをしていた時はこんな生活でした。
日曜/午前
家族との時間を過ごす
唯一の家族サービスにも関わらず、とにかく疲れているし眠い。休みが半日なのもつらい。
日曜日/夕方
荷物を積んで目的地へ出発する。1日平均600キロぐらいは走っていました。
東京ー青森の直線距離が580キロだそうです。冷静に考えなくてもヤバイですね。これを毎日走っているんですから。目的地には時間までにつかないといけないので、休む時間もほとんどありません。
月曜日/朝
目的に到着し積み下ろし。荷物が降ろし終わると同時に、次の荷物を積み込む場所まですぐに向かいます。
積荷も降ろし先も日によって変わりますが大体こんな感じ。
月曜日/深夜
降ろし場に到着
約600キロの運転を終えて一休み出来る。とはいえ、3時間寝れればいいかなという状況。トラックで寝る。
火曜日/朝
取引先の人に起こされ荷降ろし。そしてまた次の積み込み先まで走る。
あとは積む、走る、仮眠の繰り返し。削られる時間は仮眠だけで常に働きっぱなし。これを1週間繰り返し。
土曜日/夜
1週間の工程を終えて帰宅
ようやく休めるが翌日にはすぐ出発。家族と出かける時間なんてどこにも無し。また、繁忙期などが絡むと日曜日も帰れず、遠方に行かされることもあります。急いで仕事しないと1日じゃ終わらないような内容の仕事もあります。
これが48時間ぶっ続けで運転する。
ブラック企業勤めのドライバー実態です。
家族がいない、疲れない、感情がない。機械のような存在だったらこなせる仕事でしょうが、普通の人間にはまず無理です。
「いっそのこと人間を辞めなくちゃ、この仕事は勤まらないな」
「今週はトータル10時間寝れたから、良く寝たほうだ」
だんだん感覚が麻痺していきます。そして「俺は麻痺しているだろうな」というのが分かる不思議な感覚を覚えます。
こんな悪循環の中、重大な事故も起こさずやってこれたのはほんと紙一重だったと思います。
・無意識のうちにトラックを路肩に寄せていた
・いつ追突されてもおかしくない場所で寝ていた
・センターラインを割ってフラフラ走行、クラクションで起こされた
・いまどこを走って、どこに向かっているのかが一瞬分からなくなる
こんな危険な話はたくさんあります。
辞めるという選択肢は無かった
あの時の自分に話しかけられるとしたら、すぐに辞めたほうが良いと言うでしょう。ですが、当時はそんな選択肢はありません。
子供は二人いて生活にお金はかかるし、もう一人子供欲しいとか、将来の為にしっかり貯金しておきたいとか。いろいろな想いがあり夢と現実の板挟み。地獄だと分かっていても抜け出せない地獄。
日々の睡眠不足と過労は体調もおかしくさせます。後は生活リズムは当たり前のように不規則です。たとえ高熱で倒れそうになったとしても、休みなんてくれません。身体にムチを打ち、ハンドルを握らなければなりません。
それに1日でも欠勤すると給料ガタ落ちになる仕組みになっていました。なんでかは分かりませんが、会社はそういうものだと思ってました。だから自分からも休みは言い出さず、39度出ていようがトラックを走らせていました。
忙しすぎて周りも余裕無し
同僚に相談しても帰ってくる言葉は同じ。
「1人でも辞められたら、俺たちの仕事がもっとキツくなるからアホなことは考えるな!」
こればかりです。
忙しすぎて誰も余裕がないんです。他人のことを気遣うことが出来ません。辞めたら悲しいとか寂しいでなくて、自分がきつくなることだけしか考えられません。これは同僚が悪いのではなく環境のせいです。
給料明細も働いている時間と比べて割に合っていません。お互いもう少し余裕があれば相談し合って、給与が少ないこと、そして会社がおかしいことにも気づけたかもしれません。
お前のとこブラックすぎない?
いろいろ我慢してましたが限界がきました。幻覚症状が起きます。寝不足なのか過労なのかは分かりませんが、とても正常に運転できる状態ではありません。
「このままじゃいつか事故を起こして死ぬ」
もう仕事を変えるしか無いと決心しましたが、働きすぎて考える余裕が全然ありません。もう追い込まれて思考回路が焼かれているよう。
「洗脳状態てこういうことなのかな…」
という感覚でした。
心の余裕が無くなり、社会に対する視野が狭くなり、自分の居場所はここしかないと思い込む。仕事を自由に選んでいいという平等に与えられた選択肢を放棄。この状態から抜け出したい。行動を起こさなければ何も変わらない。
こんな思いが頭の中をぐるぐる回っています。
頭の中が混乱している自分がとった行動は、違う運送会社の人達に話を聞くことです。同僚に相談しても何も解決しないので、他の世界を知っている友人です。
その結果分かったことが…
同じ運送業界でも仕事内容も給料も様々だったことです。
求人情報では分からないことがたくさんあります。ですが、実際にその会社で働いている人に聞けば、ブラック度合いも見えてきます。
労働環境が良い会社の特徴
・みんなしっかりとした自分の考えを持って働いている
・会社が不可能な配車、運行をしない
・重大事故を起こさない対策を充分に取っている
いろいろな学びがありました。
「運転手はみんなこれぐらいは働いている」
会社に入社したときに社長が言っていた言葉。これを信じていましたが全くのデタラメ。自分が若かったからごまかせれていたのでしょう。もっと疑うべきだったと後悔はするものの、社長に対しては疑問と怒りを覚え半ば強引に退職しました。
求人には賞与年1回支給と書いてあったのですが、1回も貰ったことはありませんでした。また退職金支給ともありましたがこれも支払われません。こんな会社辞めてよかった、続ける意味も無い。そう思えるようになったのは、他運送会社で働く友人のおかげです。洗脳から冷めた瞬間です。
即戦力になってほしい
地獄のような日々からやっとの思いで抜け出せたのはいいのですが、このまま無職で収入を絶やすわけにはいきません。
すぐに話に聞いていた別の運送会社へ面接に行きました。過去の出来事が夢に出てくるほどトラウマになっており、またドライバーになることに少なからず抵抗があったのは事実です。
ただ、あれより地獄になることは無いだろう。
底辺を知った安心感はありました。
また、ブラック会社に勤務していた分、運送に対する仕事の経験は豊富にあります。悪いことだけでなくプラスだったこともたくさんあります。その中で、会社規模も大きく労働時間、運行規則も守っている運送会社で働きたいという気持ちになりました。
「ぜひうちで即戦力になってほしい」
私の経験と熱意が届きました。
「良かったー!!!」
と妻が泣いて喜んだ光景は今でも脳裏に焼き付いています。
一人で子供を二人抱える生活、想像以上に大変で寂しかったのだと思います。さらには過酷な仕事のため、もしかすると事故を起こして死んでしまう可能性すらあったわけです。不安で眠れなかったのは自分だけでは無かったのです。
最後に
結果的にいうと自分は転職に成功しました。
給与は決して多くないが前の会社と同じくらい。そして業務時間は半分になりました。今の社長に当時の運行スケジュールを話すと、やばすぎてびっくりしていましたね。そして同じ運送会社として恥、そこまで言っていました。それだけ過酷だったのですね。
そして、聞いていたとおり無理な運行もありません。過酷な業務、命の危険から救われました。休日にショッピングしたり、家事にも参加できたり、家族サービスも充実できるようになりました。一番嬉しいのは子供の成長を見れることですかね。最高の幸せです。
悩んでいる人は勇気を出して欲しい。特に運送業は人の命も関わります。自分だけでなく誰かを巻き込むこともあります。そんな事故を起こせば一生取り返しの付かないことになります。
今すぐ辞めた方が良いとは言いません。他運送会社で働く人に話を聞くだけでいいです。自分の会社が正しいのか?間違っているのか?忙しすぎるとその判断がつきません。一番怖いのは思考停止状態です。
運転は一人でやるものですが、相談は一人では出来ません。ドライバーは横のつながりも強いです。決して殻にこもらないでください。